私の師1

そこに人がいて、猫もいる。そこに猫がいて、人もいる。

そんな暮らしを愛した人。

権兵衛ちゃんが亡くなった。

私がそう書くと、ごんべえちゃんと言う名前の猫が虹の橋を渡ったみたいだけれど、権兵衛ちゃんは人の名前だ。

この名前を、本人いたく気に入っていたというところが、さすが権兵衛ちゃんだ。

なぜ気に入っていたのか。

犬でも猫でも人でも通用する名前だろ?だってさ。

ふん。

カラスにも似合うよね、権兵衛ちゃんて。

なんならカップうどんでもイケちゃう名前だけど。

心から猫を愛した人。

猫神さまからも、たぶん強烈に愛された人だ。

大手証券マンの権兵衛ちゃんが20年間で譲渡した猫は362匹。

個人でTNRした野良猫は、おそらく1000匹に近い。

すべてに協力的な奥方と大学生の娘さんと8匹の猫、3匹の犬と暮らして来た。

彼の仕事での有能ぶりも、表紙にねこと書かれた大学ノートの緻密さを見ればすぐに分かる。

15年前に譲渡した猫の写真が貼られたページには、当時その子が食べていた餌の銘柄までもが記され、1年前のその猫の近況が書かれていた。

そんなふうに譲渡したすべての猫が記されている。

15年前に譲渡した猫の昨年の様子。

それを分かっているって。

すごい事だ。

不妊去勢手術が上手いと言う評判を聞き付けると、会社帰りのオーダースーツに身を包み、その評判の良いと言われている動物病院に直行する。

診療時間が終わるのを待ち、院長に、ボランティア料金での野良猫の不妊去勢手術のお願いをするためだ。

ボランティアの財布と手術後の野良猫の身体の負担を少しでも軽くするために。

そして、そこでも彼はエリート証券マンぶりをいかんなく発揮して、彼の顧客には、動物病院院長が実はすごく多い事を、私は知っているよ、権兵衛ちゃん。

猫に関わることを続けるなら、お金は大きな力で、個人のお金を使うことで助けられる猫がどれだけ多いかを、権兵衛ちゃんは嫌というほど知らされて来た。

彼は、夢を語るリアリストだった。

精魂尽き果てない譲渡ならやめた方がいい。

譲渡に関して。

彼はそう話したことがある。

今月3日に飼い猫となったモネ改めパルムちゃん。

お兄ちゃんとのツーショット写真が送られて来ました。

おとうちゃんとママは、リビングに布団をひいてパルムちゃんと寝ているそうです。

そして、あいかわらずのリリィスマイル。

ソファの上もパパとママの真ん中が好き。

リリィちゃんはパパが大好きなんだそうです。

こんな写真を、もっともっと見たい。

権兵衛ちゃん曰く精魂尽き果てる譲渡を、少しずつでも続けて行けたらいいな。

権兵衛ちゃんの言うように、悩んで悩んで、それでも最後には自分の直感を信じて。

あなたという師がいたことが、私の幸せの一つだなぁと、つくづく思うけど。

46歳の死は早すぎるよ、権兵衛ちゃん。

悔しいな。